げ]千八百六十九年九月一日
[#地から5字上げ]ランボオ・アルチュル
[#地から1字上げ]シャルルヴィルにて、千八百五十四年十月二十日生
[#改ページ]
3 エルキュルとアケロユス河の戦ひ
嘗て水に膨らむだアケロユスの河は氾濫し、
谷間に入つて迸《(ほとばし)》り、その騒擾いはんかたなく、
そが浪に畜群と稔りよき収穫を薙ぎ倒し、
人家悉く潰滅し、みはるかす田畠《でんぱた》は砂漠と化した。
かくてニムフはその谷を去り、
フォーヌ合唱隊亦鳴りを静め、
人々は唯手を拱《こまぬ》いて河の怒りを眺めてゐた。
此の有様をみたエルキュルは、憐憫の思ひに駆られ、
河の怒りを鎮めむものと巨大な躯《み》をば跳《をど》らせて、
逞しい双腕に泡立つ浪を逐ひまくし、
そがもとの河床に治まるやうに努めたのだ。
制《おさ》へられたる河浪は、怒濤をなして呟きながらも、
やがて蜿蜒《(ゑんえん)》たるもとの姿にかへつたが、
河は息切《いきぎ》れ、歯軋《はぎし》りし、そが蒼曇る背をのたくらし、
そが険呑《けんのん》な尾で以て荒《すが》れた岸を打つてゐた。
エルキュルは再び身をば投入れて、腕をもて河の頸をば締めつけ
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