ず空色の翼に載せて
魂を、摘まれた子供の魂を、至上の国へと運び去る
ゆるやかなその羽搏きよ……揺籃に、残れるははや五体のみ、なほ美しさ漂へど
息づくけはひさらになく、生命《いのち》絶えたる亡骸《なきがら》よ。
そは死せり!……さはれ接唇《くちづけ》脣の上《へ》に、今も薫れり、
笑ひこそ今はやみたれ、母の名はなほ脣の辺《へ》に波立てる、
臨終《いまは》の時にもお年玉、思ひ出したりしてゐたのだ。
なごやかな眠りにその眼は閉ぢられて
なんといはうか死の誉れ?
いと清冽な輝きが、額のまはりにまつはつた。
地上の子とは思はれぬ、天上の子とおもはれた。
如何なる涙をその上に母はそそいだことだらう!
親しい我が子の奥津城《(おくつき)》に、流す涙ははてもない!
さはれ夜|闌《た》けて眠る時、
薔薇色の、天の御国《みくに》の閾《しきみ》から
小さな天使は顕れて、
母《かあ》さんと、しづかに呼んで喜んだ!……
母も亦|微笑《ほゝゑ》みかへせば……小天使、やがて空へと辷《(すべ)》り出で、
雪の翼で舞ひながら、母のそばまでやつて来て
その脣《くち》に、天使の脣《くち》をつけました……
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