の指で摺りその上をパンでゴシゴシ消すと、木炭紙は滑《なめら》かになってしまって木炭はのらなくなる。
木炭では、最も軽く淡き色より最も濃く黒き色に到るまでの多くの度や、階段を造り得るものである。それを生かして自由自在に調子のために活用すべきである。
以上、先ずざっと、その位いの事を最初に知って置く必要がある。それからは、要するに自分自身の眼を以って、出来るだけ正確に写す事である。
5 人体習作について
素描を研究すると同時に、油絵を以って、人体の五体を描く事は、基礎工事として技術上欠くべからざる順序である。
この世の中で人間が一番よく了解し得るものは、お互の人間同士の姿である。猿は猿を知り、犬は犬を知り、猫は猫を、牛は牛を知っているはずである。
人間は猫の縹緻《きりょう》の種々相を見わけるだけの神経を持たないが、猫はちゃんと持っているのである。
松の木の枝を実物よりも五本省略して描いても松は松であるけれども、人間の指が一本不足しても、人は怪しむ、人間の腹のただ一点である処の臍[#「臍」は底本では「腸」]を紛失させたとしたら、腹は不思議な袋と化けてしまう。
人間
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