は、人間の形をよく了解すると同時に、人間の五体の美しさをも最もよく了解するものである。
 人間が鹿《しか》や鳥の水浴を見て恋を感じたという事は珍らしいが、それと同時に人間の五体が如何に美しいとはいえ、牛や馬が見ても世の中で一番美しいものは人体だとはいえないであろう。牛は牛の五体が最も美しく、馬は馬の五体を了解する事かも知れない。
 目下、油絵の基礎的技法として、または最も興味ある題材として、一般に裸身を描く事が行れている事については、それが人間にとって、他の何物よりも強き美しさを感じさせ永く描きつづけて飽きる事がなく人間が人間をよく了解するが故になおさら他の万物よりもごま化しの利《き》きにくい処のものであって、その色彩の複雑にして、微妙である処、一ケ所として一様な平面を持たないあらゆる凸凹において、線において、立体において、そのかたさ、滑らかさ、その構成の美しさがある。
 人間が鹿や鳥の水浴を見て恋を感じたという事は珍らしいが、それと同時に人間の五体が如何に美しいとはいえ、牛や馬が見ても世の中で一番美しいものは人体だとはいえないであろう。牛は牛の五体を感じ、馬は馬の五体をよく了解するで
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