本に多い例である。
 私は昔、現代劇に、浄るりのチョボが現れたのを見た事があった。また、乃木《のぎ》大将伝を文楽座で人形浄るりとして演じた事があったと記憶する。前者においては愛子は涙の顔を上げて太夫が語ると愛子というハイカラな女は顔を持ち上げて泣き出した。
 かかる例は極端な場合であるが、しかしこの極端が往々にして平然と今の時代の新工夫新様式として通用する事があるのである。この事はかなり重大な問題であるのでここにはっきりと尽す事は出来ないが、要するに西洋画と日本画との技法には、根本的に単位の違ったものが存在するという事を、いって置きたいのである。

 大体東洋画の特色ともいうべきものは、絵に実際の奥行きのない事だといってもいいかと思う。その代り奥行きは間口の方へいくらでも延びて行く処の技法である。例えば家に奥行きを多く作る必要ある場合には土佐派にあっては家の屋根を打ち抜いて座敷を見せ、その中の事件を現すやり方である。あるいは南画の如く山の上へ山を描き、そのまた上に海を描き、その上になお遠き島を描く事である。
 百里の距離を作るには日本画では、先ず近景を描き、中景を描き、而して百里の先き
前へ 次へ
全162ページ中18ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小出 楢重 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング