音のいう処、命ずる処に従ってそれ相当の技法を用いて行く処に新らしい意味が生じてくる。

     3 技法の基礎的工事について

 私は近代の画家は、最も自由な技法によってその本心本音を遠慮する処なく吐き出す必要があると思うのである。そして、その心の命ずるままに、あらゆる技法を生むべきものであると思う。
 また各人各様の技法を持ち、絵画は千差万別の趣きをなすという処に、自由にして明るい世の中があるのだと思う。この世の中の画家が悉《ことごと》く一様に仲よしであり、お互に賞讃し合い遠慮し合い意気地《いくじ》のない好人物|揃《ぞろ》いであったとしたらしかも安全と温雅を標語としたら、随分間違いは起らないかも知れないが地球は退屈のために運行を中止するかも知れない。
 ところで、しかし、人間の本心というものはかなり修業を積まぬ限りさように容易に飛び出すものではないようだ。さように簡単な本心にちょくちょく飛出されては世の中が迷惑するであろう。これこそ俺《お》れの本心だろうと思った事が、翌日、それはまっかな嘘《うそ》であったり、人の借りものであり、恥かしくて外出も出来ない場合がない事はない。極端にいえ
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