ばこれこそ人間の本心であり個性であるというべきものは死ぬまで出ないものかも知れないが、その本心を出そうとする誠意と、それに近づこうとする努力とが芸術を多少ともよろしき方向へ導くのではないかとも思う。
勿論、人間の本心は子供の時代を離れ一旦《いったん》神様から見離された以上、人間は、今度こそ、自分自身の努力によって神様を呼び戻さなくてはならないのである。
技法以上の絵、絵にして絵にあらざるの境と誰れやらがいったが、正にその境に到達するまで、何んとかしてやらなければならないのだ。
食べて後吐く、食べて後|排泄《はいせつ》する。先ず技法の基礎をうんと食べる必要がある。
では何を食べるか、それは画家は先ずこの世の中の地球の上に存在する処の、眼に映ずると同時に心眼に映ずる処の物象の確実な相を掴《つか》みよく了解し、よく知りよくわきまえ、その成立ちを究《きわ》める事が肝要ではないかと思う。
この世の物象をよく究め了解する事においては、目下油絵技法の根本の仕事としては一般に先ず最初は素描、即ちデッサンの研究によって自然の形状、奥行、光、調子、といった事柄を探索するのが最も安全にして重要な仕
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