と思っていたが。

     D

 私は絵を描く事以外の余興としてはスポーツに関する一切の事、酒と煙草《たばこ》と、麻雀《マージャン》と将棋と、カルタと食物と、あらゆる事に心からの興味が持てない。ところでただ一つ、何故か気にかかるものは活動写真である。それで、映画は散歩のついでに時々眺める事にしている。近来、日本製のものがかなり発達したという話だが、私は以前二、三の日本映画を見て心に恥入ってしまってから、まだ当分のうち決して見ない事にしている。
 しかし、その西洋のものといえども、私の健忘症は見たものを次から次へと忘れて行くが、私はアドルフマンジュという役者を忘れ得ない。私は彼のフィルムは昔からなるべく見落とさぬように心がけている。
 私は彼が「パリの女性」に出て成功した以前、随分古くから至極つまらぬ役において、現われているのをしばしば見た。随分|嫌味《いやみ》な奴だと思っていたが、また現れればいいと思うようになり、その嫌味な奴が出て来ないと淋しいという事になって来た、幸いにも彼は出世してくれたので、私は遠慮なく彼の嫌味に接する事が出来る事は私の幸いである。
 も一つ、私は欧洲大戦以
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