でに至る事は随分の辛棒《しんぼう》が必要だった事である。勿論昔は絵具の練り方作り方が一つの修業でもあり、画家の職責でもあった。
日本画も絵具の溶き方においてとても六つかしい秘伝さえある様子である。
ところが近代にあっては、絵具は専門の会社において科学的に製造される事となってしまったため、画家はただそれを使用さえすればよいのである。画家の修業におけるかなり重大な部分が、引離されてしまった訳である。
画家はただ自分の本当の仕事だけをやればよい事となってしまった。勿論日本画家のあるものは今もなお絵具の溶き方にかなりの修練をやっているようであるが。
従って今もし画家の家へ年期奉公をしたとすれば雑役以外にする仕事がない。
この点からいって、今の時代では入門に先き立って人の心を養って置く方が得策だ。それには丁度|幸《さいわい》な事に普通学というものがある。
それから、昔は西洋でも日本でも先生各自の流派というものが非常に重《おもん》じられ、心そのものよりも画法というものを重大に考えた。
その画法には秘伝があり、描くべきものには必ず厳格な順序がありその軌道に従って描くのである。その法軌か
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