心臓は昂進《こうしん》を始めた。これはいけないと思う間もなく私は七ツ道具を投げすてて草原の上へ倒れてしまったのだ。ところで私はちょっと空を眺めて見た、この世の空かあるいは最早《もはや》冥土《めいど》の空かを確めるために。すると、頭の上には大きな馴染《なじみ》の杉の木が見えたからまだ死んではいない事だけはわかった。
誰かいないかと思って周囲を眺めると半|丁《ちょう》ばかりの先きに道路を修繕している人夫《にんぷ》がいたのでともかく「私は今死にかかっています、早く来て下さい」と二度叫んで見た、するとその男たちはちょっとこちらを眺めたがまた道路を掘出すのであった、私は随分他人というものは水臭いものだ、死ぬといえば何はさて置き飛んで来てもいいはずのものだと思ってイライラした、私はもう一度「早く来てくれ、私は死ぬ」と叫んだ、勿論さような大声が出るからには、すぐ死にそうには見えなかったことだろうと思う。
人夫の監督が何か指図《さしず》するとすぐ二人の男が駆けてくれた、そして私は助けられて、宿である処の江戸三の座敷へ運ばれた、同宿の日本画家M君は私の冷え切った手足を夜通し自分の手で温めてくれた、私
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