》ったのだ、私はこれはあまりだと思って、二、三度強く足踏みをして見たが、何の反応もなかった、とうとう、十貫目と相場が定《きま》ってフラフラと下宿へ帰った事があった、それ以来なるべく計量器には乗らぬように心がけている。

 胃のサボタージュのひどい時にはしばしば脳貧血を起すものだ、脳貧血はところ嫌わず起るものだから厄介《やっかい》だ、私はこの脳貧血のために今までに二度|行路病者《こうろびょうしゃ》となって行き倒れたことがある。一度は東京の目白《めじろ》のある田舎道で夜の八時過ぎだった、急にフラフラとやって来て暗い草叢《くさむら》の中へ倒れた、その時は或る気前のいい車屋さんに助けられたものだった、その時の話は以前|広津《ひろつ》氏が何かへ書いたことがあるからそれは省略するとして、今一つは奈良公園での出来事だった。
 私は朝から胃の重たさを感じながら荒池の近くで写生していた、例によって昼めしなど思い出しもしなかったのだ、その日は私の一番いやなうす曇りのジメジメとした寒い日だった、午後三時ごろであったか、七ツ道具を片づけて或る坂をば登りつめたと思うころ急に天地が大地震の如くグラグラと廻転し始め
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