眠していますので、やや心安んじている次第であります。

   人間が鹿に侮られた話

 ある夏のことでした。今フランスに滞在している大久保作次郎君と私とが奈良の浅茅ケ原の亭座敷を借りて暮していたことがありました。
 ある日ちょっと散歩して帰ってみると、締切って出たはずの障子が少し開いているではありませんか。
 おかしなことだと思ってちょっと恐る恐る中を覗いてみますと、大きな一匹の女鹿が座敷へ上がり込んで寝ているのでありました。
 おい君、出たまえ、と大久保君が鹿に申しました。私は箒を持ち出して鹿のお尻を突いてみましたがなかなか動きません。ただ尻尾をピリピリと動かしただけです。しかしながら四畳半で眺める鹿の大きさは、また格別なもんだなと思いました。
 君出たまえぐらいでは駄目だというので、二人がかりで尻をどやしつけましたら鹿は止むを得ぬといった様子でのそりと庭へ降りました。
 温厚である大久保君も、そののっそりとした様子が、いかにも人を見下げた態度だと腹を立て、やにわにステッキを握って鹿の後を追いました。[#底本ではこの行一字下げしていない]
 鹿という奴は一体ちょっと見たところいかにも
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