フランスは巴里《パリ》の都で、初めて好きな帽子にめぐり逢《あ》ったのでした。
 巴里でも伊太利《イタリア》製や、アメリカ、英国製品がかなり多く入っていますが、純フランス製のものの中に私の注文通りの型が沢山あるのでした。
 私はサンミッシェルのある帽子屋へ飛び込んで、一番好きな黒の中折《なかおれ》を一つ買って、勇んで下宿へ帰ったのでした。
 鍔の狭い事は格別でそして急角度深く巻き上っているのです、その角度に何んともいえない味があるのです。
 巴里の極《ご》く普通の男がよくこの帽子を冠っています。それが私の今なお愛用している帽子であります。ところがもう三年余りにもなりますので、よほど古ぼけてしまって色も変って来たようです。
 本国の巴里でさえ、もうこんな形は流行していないかもしれません。目下|堪《たま》らなく心細い思いをしている次第。
 しかしながら、こんな場合の用意にと思ったわけではありませんが、山が円《まる》くて、鍔がそれはうんと巻き上った黒の軟《やわら》かい帽子をマルセイユで、買って置いたのでした。これは、まだそのまま、トランクの底にフランスの匂《にお》いと、ナフタリンの香気と共に安
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