は画面へ決して現われないでしょう、即ち月は、何よりも真先きへ描いて置く必要があります、そして、あとから空全体を塗りつぶさなくてはならないのです、もしも雲があれば、雲も月と共に、先きへ描いて置かなくてはならないのです。
林檎《りんご》を描くとします、その光ったハイライトの部分は、先きに描いて置くのです、次に暗い影を描くのです、最後に赤い全体の球を塗りつぶすのであります。
滑稽《こっけい》な事には、自分の署名などは、左文字で一番最初に、記《しる》して置かねばならない事です。
それをうっかりして、先きへ描いて置くべきものを忘れてしまって、あとで弱る事があります、例えば裸体人物に、臍《へそ》を忘れて、腹全体を塗りつぶして、あとから表を返して見て驚く事があります。こんな時に、臍の部分だけ、あとから絵具を、アルコールで拭《ぬぐ》い取らなければなりません、地塗りとか空とかバックなどは、最後の仕事です、樹木などは、葉の一枚一枚の点々は先きに、葉の全体の固まりは、後から塗ります、道路の点景人物は先きに石ころも先きに、道全体の色は最後に塗りつぶさねばなりません。
時々裏返えして見て、仕上って行く絵
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