などゆっくり味わっていることは出来ないので、他の芸事はどうか知りませんが芸術というものの中でも、西洋画と称するものおよび日本画でも多少時代の影響を受けている新時代の日本画などは、昔の芸事というのんきな場所には落ち着いてはいません。
 それで今は芸術が角力、野球、ボートレースおよび喧嘩の域に到達した時代であります。
 それで油絵の老境に入ったという人というのは、皆破れたタイヤーの如く憐れに萎びてしまっているようであります。
 先代から現代へ持ち越しているいろいろの芸事は充分に仕上がったのを楽しむのであって、ただその練習が必要であるばかりでしょうが、今は何か仕上げなくてはならないという芸術家にとっては楽ではない、ともかく勇壮な時代なのでしょう。ともかく当分芸を楽しむなどいうのどかな事は許されないでしょう。したがって老年には適しない仕事であります。しかしながらある年数を経ていつかは安心の出来る老境に入った人達の仕事として楽しまれたり、また実際に老境が立派なものを作ったりする時代も来ることであろうとも考えます。あるいは地球のつぶれてしまう時までそんな安心は再び来ないかも知れませんが、それはどう
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