いなどもあのグロテスクな、近所の若いものとか、腰元の奇妙な人形などは、練習の最中の人達が使うのでしょう。主人公になる人形は、相当の人達が使っているので安心して見ていられるのであります。安心が出来るというのは結構なことであると思います。
 何事でも練習の必要な芸事ではすべてある老境に入らなくてはその芸には安心がならない、日本画などいうものでも、現在は気質が日本画家なども西洋画家に類して来、また類しようとつとめている傾向もあるので多少勝手が違いますが、昔の日本画家は若いものよりも老境を尊びました。
 それで中には年三十歳で以て何翁と名乗った阿呆もありますが、しかしながら心掛けははなはだ結構であります。
 すべて芸事は充分の練磨と、習得、考えとが必要なようです。
 角力とか、野球とか、ボートレースとか、喧嘩とか、女郎買いとかいうものの老境はあまり感服しません。老いてますます盛大な人もありますが、これはやはり嫌味を伴いやすい。
 ところで近頃の世の中、ことに日本などはとてもややこしい文明であって、無理矢理に泥道を走る乗合自動車の如く、何かの場所へまで走る必要が起こっているので、安心の出来る芸術
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