ある。
 私はこの触覚を温かいとか冷たいとか、手ざわりや肌ざわりの範囲から一歩進めて、すなわち触覚で味わう独立した芸術を作り出してはどうかと思うのである。
 芸術の中でも彫刻はよほど指の触覚を使うそうだ、モデルの肉体の凸凹などを手で触れてみるそうだ。彫刻家のモデルはそれを心わるく感じるという話を聞いた。しかしそれはただ触覚で目の働きをいくぶんか助けるだけの仕事であって、触覚が独立して芸術とはなっていないのだ。
 それでは触覚で作る芸術とは一体どんなものだろうかというと、まずそれはまったく写実を離れた造形芸術であることは確かだ。何しろ神経の端から伝わって来る触感がモティフとなるのだから、自然の模倣は出来ないことだ。またやってもつまらない、それはちょうど音楽と同じことだ。
 例えば富士山と海のある風景の触感を味わいたいと思って、その山と海とを手で撫で廻してみることはとうてい不可能なことである。
 それでまず触覚芸術のモティフとなり得るものについて考えてみよう。
 触覚のモティフはまず大体凸凹、ブツブツ、クシャクシャ、ザラザラ、ガタガタ、ゴツゴツ、コツコツ、カチカチ、ヘナヘナ、ヒリヒリ、サラ
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