中などでお隣の美人を感じたり味わったりする不良青年は、主として触覚の世界に住む男とみて差し支えない。そんな場合その男の目は知らぬ顔をしてよそを眺めているのが常である。しかし時々は実物を眺めもするものだ。
 目下めあきの触覚は知らず知らずの間にいろいろの方面へ働いているもので、その世界はかなり広いらしいが、どうも触覚というものは味覚などよりも少し品格が落ちるように思われる。味覚の方ならば友人や先輩とでも一つの晩餐をともに致しましょうかということもできるが、触覚はどうもそうは行かない。何しろ手ざわりと肌ざわりとかいっただけでもあまり高等な感じはしないものだ。たいていの場合、触覚が出ると物事が下卑てしまっていけない。
 恋愛などやる時にも、最初からあまり手ざわりや肌ざわりを要求したりなどしては大変失礼なことになるものである。
 夏の夜店や、電車の中や、人ごみの中、シネマの中で、不良と名のつく青少年男女はこの触覚を乱用する。しかしながら触覚というものは音のしないものだから、不良でない立派な紳士が応用していても一向発見されずにすむから、どうも触覚なるものはこっそりと不徳を行うためには便利なもので
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