めしを早くさせて慌てて行ってみたら、今日はまだ二時であるにかかわらず正門は閉ざされてあるので、これはまたどうしたのかと思って聞くと、今日は土曜日だというのでした。ナルホドと感心してまた引退がったが少し腹が立ちました。考えてみると、その翌日は日曜日に当たるのです。心細くなります。ようやく月曜には早朝から出かけたら、さすがに銀行は開いていましたが、一応パリ本店へ問い合せるから二、三日待てというのです。再び退屈きわまる三日を過ごして行ってみると、この金額は一月十何日に為替の本券を持参におよんだ者へパリ本店において支払ってしまったというのです。普通でさえ、なかなか口へ出ないフランス語が、ドキッとすると同時に一言も出なくなってしまいました。しかし一月十五日頃僕はパリにいなかった、カーニュにいたということだけ辛うじて発音して、あとは無言のまま再び引退したのでした。それはいいとしてもイタリア行きはどうなるのです、その金は日本へ帰る旅費までも含まれているのですから少なからず弱りましたね。オテルへ帰ると、近火でもあったように見舞いに集まるものがあるやら騒ぎです。しかし何しろ消え去ったのが一カ月も以前のこ
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