した。
二月のある日日本からの手紙を受け取ったので開いてみると普通の手紙の中から為替の副券が飛び出しました。手紙の文句によると、本券はよほど以前に書留でもって発送したが受け取ったかと書かれてあるのでした。しかし僕はそんな覚えはないのでこれは必然、何か便船の都合か何かで前後したものかくらいに思って気にも止めなかったのですが、何しろ旅を急ぐものだからこの副券で金を引き出そうと考えたのでした。金は当時の相場に換算して一万フラン余りのものであったのですから、大いに元気づいたわけです。近くのニースの町にあるパリの銀行の支店へ出かけ、その帰途クックへ寄ってイタリア行きは一等の寝室でも予約してやろうぐらいの意気込みで出かけたのです。
変なことのある時には予感というものがあるものですね。ニースの町へ到着して銀行の正門を入ろうとすると、門衛は鉄の戸をピタッと締めてしまったので、僕は思わず「何でヤ」とウッカリ大阪弁を出したのでした。この大阪弁がフランス人の門衛によく通じたものとみえて、時計を指さして示しました。見るとちょうど四時なのでした。ナルホドと思って引退がって帰りました。翌日は今日こそと思って昼
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