硲《はざま》君も正宗《まさむね》氏なども来ていて、毎日近くのシャトウやオリーブの林を描きに出かけたものだった。正月だというのに外套《がいとう》も着ずに写生が出来るのだから結構だった。
 私たちのその安宿というのは、真《まこ》とに田舎風の古めかしい家だった。この宿にジョセフィンという女中がいた。アルサスの女だといって自慢をしていたが大柄な男のような女で鼻下には多少の口髭《くちひげ》もあって、あまり美しいとは考えられなかった。しかしアルサスの女は大変美しいのだと彼女は常にいっていた。それが毎朝、カフェーとパンを私の枕《まくら》もとへ運んだり部屋の掃除に来たりした、随分よく働く女でかなり親切にもしてくれた。
 或日、彼女は部屋の掃除にやって来て、私の写生帖へ何か書き記して見せるのであった。私は少しもそれが読めないし、面倒臭くもあったので、ただいい加減の返事をしてあしらっていたものだ。すると彼女は、よく活動写真で、西洋人が困ったとか弱った場合によくする処の両肩を上げて頸《くび》を少しかしげる表情をしながら何かしきりにぶつぶついっていたがとうとう彼女はあきらめて出て行ってしまった。私には何の事か
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