ってしかも田舎の語で意志もよく通じかねるのですから、これにはまったく弱りました。
C日、T君が朝やって来ました。この人四十歳位です。もと商売と俳句を兼ねてやっていたもので評判の好人物です。この頃は、また殆ど絵に熱中しているものですが、以前俳人であっただけに何でも気分を味わったり、吸うたりするのが一番好きらしいのです。それでいて、いつもふさいだ顔つきをしています。それは、大切の子供をなくしてからだろうといいます。そうかもしれません、気の毒なのです。
一年程以前には洋画の材料屋の気分を味わうために、いい場所にちょっと気の利いた家を借りました。開業宣伝のため階上階下に院展の人達の小品を陳列しましたので行ってみますと、下も二階もシンと静まり返っています。これはまた閑寂な展覧会だと思って、二つ三つ絵を眺めていますと、二階から女の笑い声がドッと聞こえて来ました。オヤ、と思って二階へ駆上ってみますと、T君は場所柄だけに遊廓[#「遊廓」は底本では「遊廊」]も近いので、馴染みであった美人四、五名を招待して絵を見せているところです。T君、その中に収まって、展覧会の気分をあくまで吸っているのでした。なか
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