か、すると……」と彼はコール天のズボンから銅貨銀貨を一掴み玄関[#「玄関」は底本では「玄間」]へずらりと並べました。そして一○、二○と数え出しました。「どうも少し足りないんです、奥さん」。はァなるほど、足りませんナ、奥さんは財布から一円出しました。
「こんなに沢山はいらないんですが」と彼はまた頭の毛を引掻きながら金を寄せ集め、ポケットへ捻じ込んで駆け出したそうです。多分ちょっと飲むために。
B日、広島から二、三度手紙を寄こしたMというのが突然訪れて来ました。まさか唐突にやって来まいと思っていたのが、やって来たのです。白い毛糸の頸巻きをして広島土産の蠣を籠に一杯ぶら下げてぼんやり立っています。大阪には親しいものは一つもないのだそうです。僕の家は二階は一間切り、それも画室になっているし、階下は家のもので占領されていますし、とうてい書生を収容する空間は一つもないのです。Mは夜汽車の睡眠不足と画室のストーブの温かみとで、頭が痛いといい出しました。
下の部屋は子供が熱を出して寝ているんですが、その隣りへ寝かすことにしました。僕は猫の子が一匹迷いこんで来ても、かなり神経を悩ますのですが、人であ
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