みたり、若いのに老人の真似をして通がってみたり、そしてひそかに自己の性慾の強きを嘆いてみたりする悲惨なものも出来て来るのです。
昔の支那の画家の作にはよく何々の筆意に倣うなどと断ってあるのがありますが、あれは大変気もちのよいものであります。日本の油絵なども(油絵に限りませんが)これを一々断り書きをするようにしたら批評家も、一々霊鏡を持ち出す面倒が省けてよろしいのですけれども。
しかしながら当今は狐の威力の方が強いので、霊鏡はいつも曇りがちで、なお田舎の散髪屋の鏡同様凸凹だらけのものが多いので、あまりあてには決してなりません。[#地から1字上げ](「アトリエ」大正十三年十二月)
アトリエ二、三日
日記などつけたことがありませんので二、三日間の思い出した事柄をちょっと記すことにいたしました。どうも阿呆な話ばかりで相済みません。これでは困る、というような恐れがありますならば、どうか容赦なくお捨て下さい。
A日Rが戸口へ現れました。長い頭の毛をモシャモシャと引掻きながら「奈良までは奥さん電車賃はいくらですかね」と聞きました。さあなんでも五○銭位と思いますがと答えると「そうです
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