かく私は全身に毒気を浴びて、くぐり戸から逃げ出しました、草鞋が追うて来ないよう戸締を固めて私は離座敷《はなれざしき》へ座ったまま神経は飛出したまま、夜の明けるのを待ちました、なるほど秋の夜は長いものだと知りました。
 あの草鞋の奴め、今朝はどんな顔をしているかと思って怖《おそ》る怖る母屋《おもや》を眺めますと、彼女は相変らぬ顔で鏡台に向って、しかも、そりゃ聞えませぬというさわり[#「さわり」に傍点]を語っているのでありました。狐狸の類ならば忽《たちま》ち姿を消す処でありますが人間はずうずうしいものであります。
 当時公園の亭座敷《ちんざしき》に住む九里氏の許《もと》へ早速相談に行った処、ここへ逃げて来てはという事になり、私は荷物一切車に積んで浅茅《あさじ》ケ原《はら》へとのがれました。
 以来、私は当分のうち毎晩草鞋の毒気に悩まされて困ったのであります。
 その後、婆さんの家近く住む按摩《あんま》に療治してもらった時、私はふと、婆さんの事を訊《たず》ねて見ました、すると按摩は意外な顔をして、あんたはよう知ってるな、察する処、やられたのやおまへんかというのです、私は実はちょっとやられかか
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