初めのうちはそれで随分|手古摺《てこず》ったものだが、いかに亭主は海を好かぬかという事を了解するに及んで、この節はあまり誘わなくなったので私は最も手近い水難から救われたのである。
 全くの処、細君《さいくん》の水泳を砂地の炎天できもの[#「きもの」に傍点]を預かりながら眺めているという惨《みじ》めさは憐《あわ》れむべきカリカチュールでなくて何んであるか。私は最近|芦屋《あしや》へ移った。永い間の都会生活に比して、何んともいえず新鮮な心地がする。例えば大阪を仕舞風呂《しまいぶろ》とすればこの辺《あた》りの空気は朝風呂の感じである。何もかもが結構であるが、ただ案じられるのは来るべき夏の水難である。海に近いという事がこの辺に住む人の一つの誇りである。西洋人の夫婦などは海水着のままでこの辺から走って行くそうである、という事を聞くにつけても心細いのだ。ぜひ朝の早いうちに一浴びして来なさいと、今から頻《しきり》に勧められているのだ。
 そこで私は何かいい水難|除《よ》けの呪《まじない》でもないかといろいろ考えた末庭の松の枝へ海水着の濡れたのを懸けて置こうかと思う、そして絶えず女中に水をかけさせて置
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