ず溺死《できし》するものと、きまったものではないので、氷水を飲み過ぎて下痢を起こして寝たというのも水難といえばいえない事もないのだ。水難を怖《おそ》れるためか、どうかは知らないが、私は性来、水に浸《つか》る事が大嫌いである、いかに三伏《さんぷく》の酷暑であっても、海の風に吹かれると私の血は、腹の奥座へ逃げ込んでしまうのだ、ましてその水の中へ浸る事はなかなかの事なのである。やむをえないお交際《つきあい》から入ったとしても私の唇《くちびる》は、見る見るうちに紫色と変色して、慄《ふる》えが止まらないのである。
この頃のように、海水浴とか水泳とか、女が寒中に抜き手を切るとかいう事の流行する時代において、かかる事を申上げるのは、誠に恥かしい次第であるがいたし方のない事だ。従って私はいまだかつて水に浮いて見たためしがないのである。
静坐法というものが一時流行を極《きわ》めた時、何んでも人間は、腹の中へ空気を押し込まなければ死んでしまうように聞かされたものだ。貴様のようなペコ腹は、うんと下腹で空気を吸えと随分うるさく説かれたものだ。幸《さいわい》この頃は静坐も下火となったので助かったと思っている
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