やと逃げ出せば、誰れかが処置をつけてくれたが、目下私が一番大人であるから、その体面上からいっても、退治《たいじ》るのは私の責任でまた退治るには、女中や妻君に任せておけないのだ。どうも手ぬるくていけない。ところで私がやるとすると、一生懸命でありすぎるため、しばしば狙いをはずす。私は蝿《はえ》たたきを握っておそるおそる蜘蛛に近づくのであるが、その八本の足を雄大に拡げて、どす黒くまるい腹を運ばせて、ヘッドライトの眼光をピカピカさせている雄姿を見ると何んとしても私の手もとは狂わざるを得ない、私はすぐ尻をくるりと、高くまくしあげるのだ、これは万一、足もとへ飛んで来た時、逃げ出すのに都合よいためである。私はいつも大江山の頼光を想い浮べて、悲壮な感にさえ打たれる。
 無我夢中になぐりつけ、蝿たたきは、そこへ投げ捨てたまま跣足《はだし》でかどへ飛出すのである。それが死んだか逃げたかを、見きわめるのは妻君および女中の役目だ、が幸《さいわい》にして不気味な、グロテスクな残骸が落ちていたとすれば、まず安心で、女中が新聞紙に包んで遠い場所へ捨てにゆくのだ。この道筋が一歩間違って箪笥《たんす》の後へでも逃げ込も
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