ったのだと白状すると、按摩は大に笑って、一体あんたの時はどんな手で来ましたという、そんなに沢山手があるのかと私は驚きました、僕の時には絹布団を敷いてやるといったよと申しますと、誰れでもその手でやられるなあと按摩は会心の笑《え》みをもらしました。
構図の話
構図(Composition)と云う事はこれを本式に研究すれば例えば黒田君の構図の研究と云う本が壱冊も出来る位い複雑なものである。
然し私は初めて絵を描こうとする人達にとってはあまり最初からむつかしい構図の理論などは知る必要もあるまいと思う。それよりも先ず物に写す技能を勉めなくてはならないだろう。然し乍ら一旦画面に向うと同時に其自然なり人物なりの、どれだけを、どんな形に画面へ切り取って収めるかと云う事が直ちに問題となってくるのである。即ち構図の知識の極くざっとした事だけは知っている方が便利であると思う。
そこで私は構図に就いての頗るざっとした話を書くつもりであるが、結局は構図のうまさも、拙ずさも其画家の感覚や天分如何によるものであるから必らず斯うすればいいと、はっきりとは云えないが、先ず大体の構図に関するざっとした心得だけを記そうと思う。
× × × ×
構図は絵を作る上に於て最も重大な仕事である。自然を写す事は絵の第一の仕事ではあるけれども、自然其ものは頗る偶然のものであり、頗る無頓着に配列されているものである。そこで其偶然と無頓着な自然全部を、無撰択に一枚の限られた画面へ盛る事は出来ない。そこで其現そうとする画面へ、其自然のどれだけを都合よく切り取り、どんな具合に配置すれば形もよく、見て頗る愉快であろうかを考えなくてはならない。そこで先ず吾々は自然に向うと同時に構図を考えなくてはならないのである。
処で其無頓着である自然は、又自然と偶然と無頓着とによって、既に複雑にして美しい無数の構図を此地球の上に構成していると云っていいと思う。吾々画家は其自然が構成する構図の頗るよろしき一部分を、小さな自分の画面へ切って頂戴すればいいのである。其切取り方と画面への配置の方法が問題である。先ず初学者としては此方法によって、画面の構図を定め然る後はただ写実であると思う。
それ以上初学者が構図ばかりを気にかけ、構図の為めに構図をする様にであっては反って面白くないと思う。一草一木さえ写す技能なしに徒ら
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