、神戸を離れたと思われるころ思いがけないところに電灯の輝く長い一筋を発見することである。夜店の賑わううしろの暗に青い麦畑を見ることもまた場末の情景である。近ごろは芦屋でさえも夜店は相当の賑わいを呈して来た。子供はその三と八の日を忘れない。

     大阪

 さて大阪は昔から商業の中心地であり、大体において中心地帯は大問屋が軒を並べているためか夜になると各戸ともに戸を締め切って街路はまったく暗やみとなって静まり返ってしまう傾向がある。晩に店を開くものは小商人としてむしろ軽蔑されがちだった。まず大阪の町は暗いのが特長だといっていいかも知れない。ずっと以前は梅田から堺筋を経て恵比須町にいたる間において、ただ日本橋のあたりが夜の灯に輝いたに過ぎなかった。そして日本橋三丁目あたりのある暗い夜店では私は幾度か兄さん兄さんと見知らぬ女に捉えられたくらいの淋しさだった。驚いてよく見ると、五人のうす汚れした女が立っていた。
 現代[#「現代」は底本では「現在」]では街の明るさは街灯によって増したけれども、でも堺筋の大部分の家は昔と同じく夜は戸を締めた暗い街路に過ぎない。第一流の散歩道といわれる心斎橋
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