ところのあくまでも合理的なむだのない形の固まりを、人体の構造と同じく美しいものと思う。
 さてわれわれの街頭風景を飾るべき主役は、即ちこれらの交通機関であり、なかんずく自動車とバスであろう。自動車は幸いにも世界共通の形のものがそのまま走っているので美しいが車体だけを安く仕上げたところのバスの形はいと情ない姿である。長さの甚だ足りない、不安定な、尻切れとんぼの、貧乏臭い箱が走って行くところは、『箱根霊験記《はこねれいげんき》』の主人公とその一族の自家用車とも考えられる。私はいつもこのバスに乗りつつ、遠くパリの街を考え、そのオムニブスの美しかったことを羨《うらや》んでいる。しかし私は東京を走る長い形のバスを少々だけ愛してもいい。近代阪神国道を走る最大の銀色バスも悪くない。

 文明都市の交通の惨禍という文字を私は度々読まされている。また日々の散歩で自動車がセンターポールへ接吻《せっぷん》したまま蜂《はち》の死骸《しがい》となっているのを見る。あるいは若い娘が急激に倒されてその頭がアスファルトへ当ってぽん[#「ぽん」に傍点]という甚だ空虚な音とともに彼女のまだ封を切らない長篇の一巻は、そのま
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