も、何よりも完全な機械でもある。そして自分はこの複雑な機械をば、生れるとすぐ自由に運転することが出来る。
 微細にして精巧な部分品が結合して路傍の雑草を形造り、山川草木を形造り、人間と昆虫とライオンと猿と虎を造る。そして虎の雄姿と、草の花の愛情をも現す。
 機械こそは近代の人間がその頭脳の働きを悉《ことごと》くここに集めて、人間の要求を極端にまで結晶せしめた一つの大建築でもある。それは生温《なまぬる》い趣味とか、遊戯によって造り出された玩具《おもちゃ》ではない。それは人体が造られ、草木が生れるのと同じ必要から、機械はまた組立てられて行く。ここに軍艦がある。まず、昔|天平仏《てんぴょうぶつ》が天平時代の必要から製造され、法隆寺が完全な姿において現出した理由と同じ理由から、現代のわれわれの生活からは軍艦が産出される。軍艦こそは実に近代機械文明の最大なる結晶である。そして、それは大きくいえば一個人、一国民の産物ではない。世界の文明国の人類が、一つ一つ、甚だしい必要に迫られ頭脳から絞り出された部分品が山積し、改められ、手古摺《てこず》らされ、構成されつつ延び上ったところの大彫刻である。だから、
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