いた節モーニングか何かで会場へ立って、自分の画集へサインでもさせていただく位ではまだ淋し過ぎはしないか。
[#地から1字上げ](「文芸春秋」昭和五年四月)

   電球

 強盗、ゆすり等はあまりに直接な行動だから芸術的余情を伴わないけれども、いろいろと工夫を凝らして玄関から欺しに来る奴の心は憎めない愛情があり、よくあんな智恵を絞ったものだと感心されることもしばしばある。そのつまらないことを考え出したその心根に同情して欺されながらもつい微笑が湧く。
 いつの頃だったか忘れたが、雨の降る夕暗まぐれに、電球の中の線の切れたものを修繕してあげますという洋服の男がやって来た。それはなるほど便利重宝なことだと思った。幸い切れた球は二個あった。一個一〇銭ですぐ修繕するという。これは欺される方もよほど常識が欠乏してはいるのだが、結局頼んでしまった。
 その男は受け取った二個の電球をポケットへ入れて出て行って三〇分ばかりで帰って来た。もう出来ましたという。その時日は[#「その時日は」は底本では「その時は」]暮れていた。彼は輝ける電球を消し球をはずして、今修繕して来たものと取換えた。なるほど不思議に輝い
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