ともに渾然として心の隅から好感が湧き上がってくる。
 あまり若い好男子を高座に見ると、かえって例えば若い男のある何物かを発見した如き、なまいやらしさを感じさせられ、彼が何を上手に喋ったところで皆不愉快の種となってしまうこともある。
 何事によらず一代の名人巨匠となると女子供にはちょっと了解致し難い人間のぬしとなり切ってしまい、狐でいえば金毛九尾となって、狐の中の超正一位のぬしとなる。
 上野の森を大観という画人が大ぜいの部下に護られて歩いていると、それは絵描きのぬしとも見えたりすることがある。
 名優の素顔も、手にとってじっと眺めてみたら、きっとがっかりする位の奇怪さを備えたものだろうと思う。ありあまりたる鼻の高さや頤の長さ等、写真のクローズアップの如く顔全体異状だらけだと思う。その位の大げさな異状を舞台へかけて遠望すれば、ちょうどはっきりとまとまったところの強き美しさにまで縮むものである。そしてその不思議な構成の強さによって心の動きもはっきりと放散出来る次第だ。
 だから座敷で見ての好男子を舞台へ立たせたら縮まってしまって、何もかも見えないところのいじけたる存在となってしまうだろう。
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