るアメリカ人が古道具屋で観音様を買って持ち帰ると直ぐ石鹸《せっけん》でその垢を洗い落して、おお美しき仏像よといったそうだが、それはあらゆる近代に応用すべき尖端のコツ[#「コツ」に傍点]であるかも知れない。
だが日本は、古くより雅味、茶気、俳味、古雅、仙骨、埃を礼讃した国民であり、折角作り出した塑像を縁の下の土に埋め、石燈籠《いしどうろう》を数年間雨に打たせて苔《こけ》を生ぜしめる趣味の特産地なのである。
伊予《いよ》へ私が旅した時、もう海を一つ越えると文化、尖端とは何処《どこ》の国の言葉かとさえ思われる静寂さだった。ある暗い旧家では私の友人の父は、息子《むすこ》からもらったという竹籠《たけかご》を、彼の鼻の脂《あぶら》を朝夕に塗り込んで十年間|磨《みが》きつづけて漆《うるし》の光沢を作ったといって、戸棚から大切そうに取り出した。
自家用の自動車を老人が鼻の脂で十年間磨いたら、さぞ雅致あるハドソンが現れるだろうと思われる。自動車こそは女性のパラソルの流行とその形の変化と同じく一年で変形する。古きを捨てて新らしきを知るものである。だが、その日進月歩文明開化の尖端風景の世の中を、十幾年
前へ
次へ
全152ページ中32ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小出 楢重 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング