れたる滑《なめら》かにも美しき小石がざらに落ちていた。
 私はなぜかくも美しきものを人は指輪に、あるいはネクタイピンに、あるいは帯止めとして使わないのかと思った。しかしながらこう泥棒の種ほどもざらに落ちていると、なるほど拾って指輪にしても、それが浜の石ころとわかればあまり人が羨《うらや》ましがらないかも知れない。奥様の指の宝石が金魚鉢の中の石と同じものであっては、威張って見ることは出来ないかも知れない。しかしまた本当に美しいものというものは、何も黄金と宝玉に限りもしないだろうとも思われる。身につけるものではないが、例えばマイヨオルの彫刻はせいぜい銅か土の固《かたま》りであり、「信貴山縁起《しぎさんえんぎ》」は一巻の長い紙であり、名工の茶匙《ちゃさじ》は一片の竹であるに過ぎない。要はつまらない石ころや紙に人の心が美しく働きかけて、本当の宝玉は現れはしないか。
 だから私は正直正銘の値だんをそのままに現して見せる所の二十円金貨の帯止めや、純金|平打《ひらう》ちや、実印兼用の大形の指輪、ダイヤの巨大なる奴が二つもヘッドライトの如く輝いている指など見ると、私はその不潔さに腹の底から食べたものが
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