散歩した。銀は葛の葉のしげみへ隠れて私を待つのだ。白い尻尾《しっぽ》が左右に動いているのが見える。私が近づくと彼女は妖魔《ようま》の如く、音もなく高く飛び上って、また次のしげみへ隠れて私を待つ。
銀はその後、勝手に一人、この叢《くさむら》へ遊びに行くようになったが、私がその名を呼んで手を叩《たた》くと、彼女はどこからともなく私の足もとへ直《すぐ》に帰って来た。ところが或日の夕方、私が如何に手を叩いても銀は現れないのだ。
私はそれから、この葛の葉の蔭に白い紙片が落ちていても、銀かと思って立ち止まった事がしばしばであった。
フランスなどの四季の変化は甚だ緩慢で、よほど注意していないと秋にいつなってしまったのかわからない事さえある。いつとはなく次第々々に冬が深くなって行く。
ところが日本の四季の変化は急激で非常にはっきりしている。土用で鰻《うなぎ》を食べたかと思う間もなく立秋である。すると、早速にも入道雲の峰が崩れかかり、空の模様に異状を呈する。それはショーウィンドのガラス面へボンアミを平手で塗りつけた如く、かき乱されたる白雲が青空に塗りつけられる。
するとやがてラジオは小笠原《
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