はこれに元気を回復し、やがて来るべき朝寒むへの用心のために脂肪を蓄積するであろう。しかし、われわれ骨人はその立秋の変化にあたりて下痢を催し、骨人は断然百パーセントの骨へ近づく。
春の草は丈《た》け短く、地にがっしりと腰を据えたるが多く、花は紅を基調とする。夏草は中等に伸び上り、花は白が基調である。秋の草は蔓《つる》を延ばし、ひょろひょろと細く、どこまでも高く、骨人や幽霊の類に配しては、全く気の毒なほどよく似合う背景となり、萩《はぎ》、桔梗《ききょう》、すすき、女郎花《おみなえし》の類は怪談の装幀《そうてい》によろしく、その色彩もうす紫が地となっている。
『雨月《うげつ》物語』の中のいずれの章であったか、俺《お》れが今度旅から帰るのは葛《くず》の葉の裏が白く風に翻《ひるがえ》るころだろうといった意味の文章があった。葛の葉の裏の白さは初秋の空白を示している。私の画室の近くは、今この葛の葉で全く蔽《おお》われている。
去年の初秋のころ、私の家には「銀」と呼ぶ白猫がいた。その眼は金色で、尾は狐の如く太く地に曳《ひ》いていた。全身は綿の如く白く柔軟だった。毎朝、彼女は犬の如く私に従って松原を
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