葉の上に、雑草の間に威張っている。
 冬の最中に春の草が地中に頭を揃え、真夏の問屋は冬帽を整え、秋の展覧会への主要な作品は二月のころに私の画室で組み立てられる。
 柿の実は青葉の懐に護られつつふくらんでいる。栗、メロン、いちじく、葡萄、その他新秋の百果は夏の青葉の陰に隠されつつ成人し熟して行く。それこそは次第に冬へ去って行く太陽が淋しき地上への贈物であるかも知れない。われわれはその中元御祝儀を遠慮なく頂戴して、そのお汁を充分に吸いましょう。
[#地から1字上げ](「大阪毎日新聞」昭和五月[#「五月」はママ])

   新秋雑想

 立秋という日が過ぎて、どれだけ私のパレットの色数に変化を来《きた》したか、それはまだはっきりとは現れない。ただ天地の間に何物かが一つ足りなくなって行く空白を、私の全身が感じるだけである。時に、甚だ冷たい風が心もち赤味を帯びた夕方の太陽の光に交って、木の下草の蔭へ吹きよせるだけである。すると、夏から用意されていた虫の子供が成人して、かすかなる音を立て初める位の変化を現す。私は深い秋より以上に、この新秋が来た天地の微《かす》かなる変化を愛する。
 だが、健康の人
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