頃は、日本のお茶という言葉を使って遠慮なく註文する事にしている。
私は暑中でも氷やアイスクリームを食べ、冷たいコーヒーを飲む事を好まない。私は汗を忍耐しながらも熱い珈琲を、熱い茶を飲む、かくして汗を以て汗を洗う。唐突に氷を以て、冷水のタオルを以て汗を引込める策略は、汗を変じて重油と化するおそれがある。
暑い日の海水浴は水の美しき誘惑には敵しがたいけれど、そのあとの皮膚の感触位|嫌《いや》なものはない。私は真夏でも熱い茶と熱い珈琲と温浴を愛する。汗のあとの湯上りの浴衣《ゆかた》の触覚にこそ夏の幸福は潜んでいる。
私は従って高山や高原への避暑を好まない。折角の夏の味を寒い処にいて袷《あわせ》でも朝夕は寒い位ですよといった自慢はして見たくない。
時に雨つづきの、もう一段と夏になり切れずにすむ夏があるものだが、私は何か天変的な恐怖をさえ感じる。
雑誌社の往復はがきはしばしば貴下の新案避暑法はといった事を註文してくる。
私は家族の者を海へ泳ぎに出しておき、一人画室のソファでのうのうと寝ころびながら、萎《しな》びた朝顔を眺めて見たり、仕事に夢中になっていたりさせてもらう方が、私にとって
前へ
次へ
全152ページ中12ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小出 楢重 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング