、三階の窓から頭を出している奴がおり、五階の入口からお尻《しり》の毛を出している奴がいたりするのであった。
私は彼らを無理矢理に階段を昇《のぼ》らせて見たりして楽しんだ。
夜になると、ビルディングの彼らはそろそろ鳴き出すのであったが、どうも市中で蟋蟀が鳴くのは、多く下水道とか、空家《あきや》の庭とか、土蔵の裏とかに限るようだから、私の座敷は妙に空家臭くなるのであった。父はそれを厭《いや》がって早く逃がしてしまえといった。
父はかなりの虫好きで、秋になると、松虫、鈴虫、といったものを買って来て、上等の籠《かご》へ入れて楽しんでいたが、どうも私の蟋蟀には全く理解がなかった。むしろ不吉なものだと思っているらしかった。
ところで私の作ったビルディングは、どうも虫の生活には不適当だと見えて、日々かなりの死者を出すのであった。
これではならぬと思い、私は考えた末、これを私の前栽《せんざい》へ解放してやろうと思った。前栽には大きな石が積み重ねてあり、その上には稲荷《いなり》様が祀《まつ》ってあった。私はこの石崖《いしがけ》こそは自然のビルディングだと思ったから、私は早速彼らをこの石崖へ撒《
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