し位に出あるいたものだ。
途中でふと停滞が始まると、私は直ぐタキシー[#「タキシー」は底本では「タクシー」]を呼んだ。そして自らの脈拍を数えながら走るのであった。タキシー[#「タキシー」は底本では「タクシー」]の窓から死生の間にゆらゆらと見える街景こそ羨ましく美しいものであった。ことに女のパラソルの色はその美しさを数倍に見せた。
ある時などあまりの苦しさからタキシー[#「タキシー」は底本では「タクシー」]を捨てるに忍びず、とうとう阪神国道を芦屋まで走らせてしまった。そして私の家を見るに及んで私の心臓は安らかに動き出したのであった。
今大変だった、死にかかった。といってみたが、もう慣れ切っている細君は医者と同じ顔をしながら自動車に乗りたかったのでしょうといった。私は随分いまいましかったが、考えてみると多少その傾向もないとはいえなかった。
M夫人は私と同じ病気をした人だったことを思いだしたのでこの事を話してみた。
すると夫人はこの病気をよく了解してくれる人が出来たといって大変よろこんだ。そして今度また停滞が起こったらすぐ電話をかけなさい。わたし同情しに行ってあげるといってくれた。
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