に洩らしました。

   グロテスク

 一部分というものは奇怪にして気味のよくないものである。人間の一部分である処の指が一本もし道路に落ちていたとしたら、われわれは青くなる。テーブルの上に眼玉が一個置き忘れてあったとしたら、われわれは気絶するかも知れない。レールの側に下駄が一足並んでいてさえ巡査の何人かが走り出すのである。毛髪の一本がお汁の中に浮んでいても食慾に関係する。その不気味な人間の部分品が寄り集ると美しい女となったり、羽左衛門となったり、アドルフマンジュウとなったりする。
 私はいつも電車やバスに乗りながら退屈な時こんな莫迦《ばか》々々しい事を考え出すのである。電車の中の人間の眼玉だけを考えて見る。すると電車の中は一対の眼玉ばかりと見えて来る。運転手が眼玉であり、眼玉ばかりの乗客である、道行く人も眼玉ばかりだ。すると世界中眼玉ばかりが横行している事になる。幾億万の眼玉。考えてもぞっとする。
 今度は臍《へそ》ばかりを考えて見る。日本中、世界中は臍と化してしまう。怖るべき臍の数だ。
 無数の乳房を考えて見る。そして無数の生殖器を考えて見る。全くやり切れない気がする。
 やはり人
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