葉があるが、全く春の朝寝のぬくぬくとした寝床の温気は、実はこうしていられないのだと思いながらも這《は》い出すことが容易でないのと同じように、大阪地方の温気に馴《な》れた純粋の大阪人にとっては、何かの必要上、この土地を抜け出すことには随分未練が伴うようである。
大体温気は、悪くいえばものを腐らせ、退屈させ、あくびさせ、間のびさせ、物事をはっきりと考えることを邪魔|臭《くさ》がらせる傾きがあるものである。
大阪では、まあその辺のところで何分よろしく頼んますという風の言葉によって、かなり重大な事件が進められて行く様子がある。従って頗《すこぶ》るあてにならない人物をついでながらに養成してしまうことが多い。よたな人物[#「よたな人物」に傍点]などいうものは関西の特産であるかも知れない。
しかしながら、このぬるま湯の温気が常に悪くばかり役立っているとは思えない。温気なればこそ育つべきものがあるだろうと思う。例えば関東の音曲や芝居と、関西の音曲、芝居とにおいてその温気の非常な有無を感じている。
即ち私は、浄るりと、大阪落語と鴈治郎《がんじろう》の芝居と雨の如くボツンボツンと鳴る地歌《じうた
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