っていはしないか、あるいは息子はあんな馬鹿な真似《まね》は嫌だといって相続をしなかったろうか、あるいは現代の子供はそんなものを相手にしないので自滅してしまったのではないかとも思う。何にしても忘れられない見世物である。

   春眠雑談

 関東の空には、四季を通じて、殊《こと》に暑い真夏でさえも、何か一脈の冷気のようなものが、何処《どこ》とも知れず流れているように私には思えてならない。ところが一晩汽車にゆられて大阪駅へ降りて見ると、あるいはすでに名古屋あたりで夜が明けて見ると、窓外の風景が何かしら妙に明るく白《しら》ばくれ、その上に妙な温気《うんき》さえも天上地下にたちこめているらしいのを私は感じる、風景に限らず、乗客全体の話声からしてが、妙に白ばくれてくるのを感じるのである。
 近年、私は阪神沿線へ居を移してからというものは、殊《こと》の外《ほか》、地面の色の真白さと、常に降りそそぐ陽光の明るさに驚かされている。それらのことが如何《いか》に健康のためによろしいかということは問題にならないが、その地面の真白さと松の葉の堅き黒さの調子というものは、ちょうど、何か、度外《どはず》れに大きな
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