造する。しかる後、彼は叫ぶのだ。
 彼が異性を目指しての突進は砲弾を発射した如くである。二人の娘がある日小川の流れに添うて漫歩していた時、一匹の男鹿が女鹿を見て走り出した。不幸な娘達はちょうどその弾丸の通る道筋に当たっていたのだ。たちまち二人とも小川の中へ突き落されてしまったのを私は見た。娘達は同性心中となって現れた。
 私は奈良に住んでだんだん鹿を憎むようになってしまい、常にステッキか石ころを用意して彼らの群の中を通るのであったが、彼らの鈍感さはまったく腹が立つ位のもので、ステッキで打ってみてもちょっと尻尾をピリピリと震動させる位のもので、キョトンとした眼でわれわれを顧みるのである。
 しかしながら近頃たまたま奈良へ出かけてみると、あの新緑の下に水辺にあるいは紅葉の側に、彼らを見るとそしてあのなまやさしい眼を見るとまた奈良へ来たという感を深くし、一つせんべいでも買ってやろうかという気にはなる。

   ややこしき漫筆

 近頃あの銀行はややこしいといえば、よほど内容が危険でいつ休業するかわからないから、今のうちに預けてあるものなら早く取り出しなさいということまでも含まれているところの
前へ 次へ
全237ページ中161ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小出 楢重 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング