るようになったら、その美しさをどれ程増すことであるか知れない。東洋の女性としてフィルムの上では私はメイ ウォンの顔を楽しむ。
[#地から1字上げ](「アトリエ」昭和四年七月)

   旅の断片

 私の旅の希望をいうと、東風が吹けば東へ東へと用事も責任もなく流れて行く流儀の旅がしてみたいと思うのである。一枚でも多くの写生がしてみたい、八号を幾枚、一〇号を何枚、ついでに大作も一枚、あの風景は絵になるかどうか、雨は降りはしないだろうか、女中の祝儀はいかにしたものか、といった風のことを考えることは随分やり切れないことなのだ。
 私は画室を旅へ持ち出すことはたまらないと考える。あらゆる責任から離れて、ただふらふらとのんきな風にのっていたいのである。
 去年の春、偶然そんな風がちょっと吹いた、それは友人T君夫婦が郷里の松山へ帰るから行かないかと突然に私を誘ったのだ。私は大作をてこずって肩のこりで悩んでいた最中だったから早速その風に乗ってみた。そして一切、自分の意志を動かさず、終始一貫してT君夫婦の行くところへついて行くことにした。随分[#「随分」は底本にはなし]無責任な旅である。したがって今は大
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