ので先代からの古い番頭に訊《たず》ねて見たり父に問うたりして見たが、皆はっきりしたことは知らないらしかった。番頭の音七は何んでもあんた、あれは親|旦那《だんな》の親旦那のその親旦那の時分によその古手を買いはったもので、その以前はやはりある薬屋の看板やったといいますというのだ。そして私の知っているのでは、島之内焼けという大火事の時に何んと火の手が、隣の豊田はんまで来た時に、急に風むきが変って、あんた妙なもんや、私とこはそのままに焼け残ったもんだす。あまりの不思議に天水香の亀が水を噴《ふ》いたというてえらい評判だした。と彼は常に私に吹聴《ふいちょう》するのだった。それから、明治の始めには、ある毛唐《けとう》があの亀を売ってくれといって来たという話も屡次《しばしば》していた。その時あの亀の目玉にはダイヤモンドがちりばめてあるのだという風評が立った。勿論、あれだけの大きな眼球がダイヤモンドであったら、私自身は今ごろ、どんな道楽息子になっていたか知れない。幸いにしてガラスであり、その中に綿が入れてあったから、私は画家《えかき》位で収まっているのである。
しかし、西洋人としては、亀の眼球はどうで
前へ
次へ
全237ページ中155ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小出 楢重 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング