てみたくて困っている。
6
トランクから妙に西洋の話になってしまったからついでにもう一つ書いてしまう。
私はある冬、ベルリンに一カ月あまり滞在していたことがあった。その時はちょうど戦後で、マルクが非常に下がり始めた頃だった。日本人は妙な運勢から皆大変な金持になったのだ。そこへまぎれ込んだ私達貧乏書生も、ちょっとした金持にはなれたのだ。たちまちあさましく[#「あさましく」は底本では「あさしく」]も友人H君とともに洋服を作ろうではないかと考えた。
下宿の娘がそれではといって私達を懇意な洋服屋へ案内してくれた。洋服屋はモッツストラッセにあった。
約束の二週間の後、私はその洋服を受取りに一人で出かけたものだが、ところがどうしてもモッツストラッセへ出られないのだ。私はくたびれてしまって辻馬車を呼んだ。そしてモッツストラッセ55と命じた。馭者はヤアヤアと合点して動き出し道を向かい側へ横切ったかと思うと急に馬車は止まってしまった。馭者がここだここだというので、よく見るとなるほど、そこに洋服屋があった。壁にモッツストラッセ55と書いてあった。ガラス戸の中にはおやじの白い頭も輝いてい
前へ
次へ
全237ページ中148ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小出 楢重 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング