会の空を横ぎっていた時、風呂屋の煙突へ衝き当たると同時に両翼がもぎれて散った。あとには魚のような胴体だけがフワリフワリと動いているのだ。
二人の飛行家がその上を走ったがやっとパラシュートが開いた。そして二人は電線へ引っ懸ったので私は安心してそのままことのほか朝寝をしてしまった。
C
ある夜、死んだ母と私がナポリの街のある宝石商の前へ立ってその飾窓を眺めていた時、火山が爆発をはじめた。ちょうど仕掛花火の如く空へ火焔が吹き上がりシダレ柳が落ちて来た。その花火の中に月が美しく輝いていた。キネオラマみたいやないかと母と話していたのである。母は淋しい顔してだまって眺めていた。
D
三越の八階の丸天井の真下を、母が雲に乗った如く平気で歩いている。ちょうどサーカスの空中美人大飛行の光景だった。母の昇天を私は感心して眺めていた。
E
ある晩、母が坐っていた時汽車がその膝頭を轢いて走った。私は驚いてその膝を見ると真黒く焼けて火の粉が蛍の如く光っていた。この夢は私の七、八歳の頃に見たものだが、今にその火の粉の色を覚えている。
F
白いチョークで雨戸へ虚無僧の図を描いていたらその絵が動き出して来たので、私は逃げ出してふとんの中へもぐり込んでしまった。そしてそっと覗くと、枕もとへ本当の虚無僧が立って私を見おろしていた。これも七、八歳の頃の夢だと思う。
G
一六ミリのフィルムに映った自分の顔の大写《クローズアップ》の頬に大変な皺が現れていた。もちろん私の口の近くには三本の皺が四、五年前から現れてはいるのだったが、かくも深刻なものとは思わなかった。まるでそれは象の尻の皺だと私は思った。
その夜、私はスイートポテトの如くパラピン[#「パラピン」は底本では「パラフィン」]紙に包まれた象の幽霊と称するものを人から貰った。馬鹿な、象の幽霊の紙包みなぞあるものかといいながら内心びくびくもので掴んでみると同時に、私は堪らなくなって怖い助けてくれと叫んで目が醒めたが、なお私は象の幽霊のお尻の幻覚におびえていた。
煙管
人間に限らず、犬猫の類《たぐい》でさえも、動くものにかなりの興味を持つ本能があるように見える。手先きを動かしてやると猫や犬は随分ふざけかかって来るし、毬《まり》を投げると追うて行く。人間だって子供は独楽《こま
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